ROACH / 『MIND OF THE SUN』(2007)全曲レビュー 琉球+ラウドロックのバランスが光る名盤
2003年に沖縄で結成されたロック・バンドの1stアルバム。
2006年にMUCCの沖縄公演のオープニングアクトに抜擢される。この際にMUCCのメンバーとスタッフがROACHのサウンドに惚れ込み、結果的にMUCCやシド、girugamesh等が所属する事務所MAVERICKと契約することになる。同事務所が運営するインディーズレーベルDANGER CRUEからリリースされたのが本作である。この時点で彼らならではの琉球+ラウドロックのスタイルはすでにかなり確立されているが、近年の作品と比べると琉球的なメロディーが占める割合が多めという印象。大人の事情か、このアルバムとシングル『scarlet』はサブスク解禁されていないが、itunesでは購入できるのでデジタル派はそちらを是非。
メンバー:
たぁま♫ (Vo) ※現在の表記は"taama"
くぼっち (Gt)
まさし (Gt)
勝也 (Ba)
MISAKI (Dr)
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1. だんでぃが ★★★★★
トライバルなリズムが特徴的な曲。歌詞は公開されてなく、タイトルも造語。何を言っているかは分からないが、taamaのボーカルも不思議な雰囲気をまとっている。ブラジルのSepulturaや台湾のChthoniCが示したように、ヘヴィな音と民族音楽の相性は抜群なので、この曲も文句なしにかっこいい。このアルバムのほとんどの曲と同様にレア曲だが、2015年以降はたまに披露されることがある。
2. 青い空〜ただそれだけの事〜 ★★★★★
シャウトボーカルとクリーンボーカルのギャップが特に光る名曲。ただ、演奏はメタルコアをもう少しライトにした感じ(少々形容しにくい)で、ツインギターがところどころLUNA SEAっぽい絡み方をするのが面白い。サビはこのバンドの良さである琉球メロディーが抜群に効いていて、どこか懐かしい気持ちになる。また、メタルコアほど刻まない、どちらかと言えばニューメタル的でシンプルなブレイクダウンが非常に気持ちいい。2011年くらいまではそれなりの頻度で演奏されていたが、その後はレア曲に。2018年の15周年記念ツアーで久しぶりに頻繁に披露された。
3. 大地讃頌 ★★★★★
疾走感とメロディアスさが共存する曲。ギターはカッティングとヘヴィなリフのどちらも聴ける不思議なバランスがかっこいい。ブレイクダウン的なパートもあるのが彼ららしい。2018年に久しぶりに演奏された。
4. 鋼の石 ★★★★☆
どこかKornを彷彿とするリフに琉球メロディーが絡む縦ノリが特徴的な曲。タイトルの石は意志とかかっていて、ミュージシャンとして生きていく上での決意的なものを感じる。この曲は自分が知る限り2008年以降演奏されていない。
5. 二十と二 ★★★★★
バンドをやるために家を出た"親不孝者"としての心境、久しぶりに会うと自分に優しく振る舞ってくれる母親。そんな母親が影で泣いていたと弟に伝えられる。しかし、自分にはこの生き方しかできない。というインディーズミュージシャンにとってはかなり"あるある"と言えるであろうトピックを赤裸々に歌い上げる歌もの。レア曲だが、15周年で披露された際はMCで"大事な曲"(意訳)とtaamaが言っていたので、演らなくなっても曲が持つ意味は変わらず重要なのだろう。
6. 我今此処に ★★★★★
疾走感あるアコギのイントロから哀愁感漂うロックに突入する。全体的にメロディアスで、ボーカル以外はかなりLUNA SEAを彷彿する(SUGIZOのリードギター要素は無いが)。LUNA SEA×ポップ・パンク+琉球とも言えるかも。ROACHのメロディアスな楽曲の中でも上位に入るかっこよさなんだけど、残念ながら2008年以降演奏された形跡なし。
7. やらい ★★★★☆
これもKorn的なリフと構成だが、いかんせんボーカルが琉球的なため"似ている"感があまり無い。他の曲と比べるとダークでミステリアスな雰囲気があって面白い。(絶対もっと演ってるはずだが)2007年以降演奏されたという情報がない。
8. コンクリート ★★★★★
メロディアスさが全面に出た名曲。ギターは基本的にコードとカッティングが中心で、ポップな雰囲気を増幅させている。歌詞の力強さがかっこよくて、個人的にも特に大好きな曲。残念ながら2010年以降の演奏記録無し。
9. 太陽 ★★★★☆
ニューメタル的な雰囲気があるが、サビで一気にメロディアスに開ける感じ。サビ以外はリズムが結構トライバル要素があってダークなのがよりサビを引き立てていてかっこいい。ラストのブレイクダウンもこのアルバムの中では1番メタルコア的。近年では15周年ツアーで1度だけ披露された。
10. feel your pain ★★★★☆
疾走感がすごいストレートなパンク・ソングだが、少しシャウトも登場する。曲調的に今演っても違和感は全く無いと思うが、知っている限りでは2009年以降披露されたのは2013年に1度のみ。
11. 桃色の風 ★★★★★
MVも作られたアルバムのリード曲。この時期の曲で唯一それなりの頻度で演奏されてきているだけあって、メロディーが素晴らしい。ヘヴィさと琉球メロディーのバランスが彼らのキャリア全体を見てもトップクラスにかっこいい仕上がり。
12. 春と夢 ★★★★★
アルバムを締めくくるのは壮大なバラード寄りの歌ものロック。歌謡曲や民謡的空気感がロックと合わさり凄まじく胸を締め付ける名曲になっている。こちらも長らくレア曲だったが15周年ツアーで久しぶりに披露された。
総評: ★★★★★
お気に入り曲:全部(強いて言うなら「青い空〜ただそれだけの事~」「大地讃頌」「コンクリート」「桃色の風」「春と夢」)
上記の"大人の事情"や、収録曲のライブでの披露頻度の低さ、公式サイトのディスコグラフィーに載っていないこともあってアルバム自体の知名度が低い印象があるが、それがあまりにももったいないレベルの名盤。近年(というか2010年以降)のROACHはよりハードコアやメタルコア要素を強め、多少メロディアスな面は減ったが、このアルバムを聴くと改めて彼らのメロディーセンスの良さを実感する。taamaは確かこの時期の音源の声が"若いから恥ずかしい"みたいなことを言っていたが、ライブでもっと披露してほしいのが本音。このレベルの名盤がここまで埋もれているのは本当にモヤモヤするので、興味を持った人はぜひ聞いてほしい。