DETARAME SOUNDS

NO MUSIC NO LIFEな一般男性による音楽レビューブログ

lynch. / 『ULTIMA』(2020)全曲レビュー

 

ULTIMA【初回限定盤】

ULTIMA【初回限定盤】

  • アーティスト:lynch.
  • 発売日: 2020/03/18
  • メディア: CD
 

f:id:detaramesounds:20200404011531j:plain

左から悠介、晁直、葉月、玲央、明徳

 2004年に名古屋で結成されたヘヴィ・ロックバンドの(ミニを含めて)14枚目のアルバム。

 

メンバー:

葉月 (Vo)
玲央 (Gt)
悠介 (Gt)
明徳 (Ba)
晁直 (Dr)

 

良くも悪くもサウンドの軸にあまり変化の無い彼ら。前作の『XIII』はラウド要素が少々減り、代わりに彼らのV系的側面が比較的強く出ていた作品だったのに対し、本作では激しいパートが再び増えている。2014年の名盤『GALLOWS』以降、どうしても曲調のマンネリ化を感じてしまう部分があったが、本作では前作とは違った形で"新しさ"が垣間見える。

 

______________________________________________________________

 

1. ULTIMA ★★★★★

ピアノの旋律と幻想的な女性ヴォーカルのイントロから、ソリッドなヘヴィ・サウンドに突入するミッドテンポな曲。リフが今までのメタルコアサウンドと比べるとかなりシンプルになっていて、それが効果的に曲にドライヴ感を与えていて非常にかっこいい。途中のブレイクダウンもニューメタル寄りでシンプルだが、一瞬ブラストビートが登場するのがいいアクセントになっている。シャウトパートもあるが、主にクリーンの綺麗さが際立つ曲になっている。ピアノは過去の楽曲にも使われていたことはあったが、個人的にはこの曲が一番似合っていると思う。

2. XERO ★★★★★

lynch.の十八番的スタイルの一つである爆走曲。これもヘヴィさが目立つが、意外とシャウトパートはそこまで多くなく、キャッチーな合いの手風のギャングコーラスが入る。そういう意味では2015年の『D.A.R.K. -In the name of evil-』以降の系譜の楽曲なのは明白。ただ、演奏の音の分厚さ、チューニングの低さ、そしてブレイクダウンのヘヴィさは逆に新境地とも言える領域に達している。ブレイクダウンに以前からたまにライヴで披露していた低いガテラルが登場するのが非常に印象的(これはこの後の楽曲でも度々披露されている)。また、前面に出ているわけではないが、LUNA SEARYUICHI (Vo)がコーラスで参加しているのが地味にすごい。こんなヘヴィな演奏にRYUICHIの声が入る日が来るとは。。。これでLUNA SEAのメンバーで音源のコラボをしていないのはSUGIZOと真矢のみ。。。

3. BARRIER ★★★★★

lynch.の様々な一面を取り入れたごちゃまぜな一曲。幻想的なギターがところどころに入るが、メインの曲調は飛び跳ねるようなリズムが中心。そこにシャウト、ギャングコーラス、悠介のディレイが効いたギター、キャッチーなサビが絡み合う。また、ここに来て本作では初のメタルコア的なブレイクダウンが入る。どの要素もそれが"本来使われる"ような曲に入っていたらマンネリ化が否めないが、このように組み合わせられていると非常に新しく聴こえる。

4. EROS ★★★☆☆

セクシャルな歌詞は結構多くのlynch.の楽曲に取り入れられているが、「GREED」を筆頭にアップテンポな楽曲が多いため、気にならない。本曲はねっとりしたミッドテンポで、葉月の歌唱もエロティック。これまでに無いほど歌詞が露骨なため、正直入り込めない。ダークな雰囲気を創り上げる技術は本当に素晴らしいと思うが、歌詞が個人的に苦手。

5. ALLERGIE ★★★★★

"気持ち悪い"という言葉がいい意味で似合う雰囲気が漂う曲。「BARRIER」同様にヘヴィさを軸にギャングコーラスやブレイクダウンが登場するが、リフはこちらの方がミステリアスでダーク。また、葉月のグロウルやガテラルも登場することもそれに貢献していると思う。タイトルの"アレルギー"に似合う病的な空気感がかっこいい。アウトロで咳をしているのがまたいい味を出している。

6. IDOL ★★★★☆

シンプルなリフで突き進むメロディアスな1曲。歌詞は解釈がいろいろできるが、ざっくり言うと"アイドル"とファンの関係性、"アイドル視"されることに対する感情が歌われている。"お人形なんてやってらんない"、"お愛想なんて撒いてらんない"のフレーズのインパクトがすごい。アイドル批判と捉えることもできるかもしれないが、個人的にはどちらかと言えばアイドルに限らず"応援している対象に自分の理想を押し付ける"という行為を批判しているように思う。これは実際のアイドルも恐らくある程度思っていることだろうし、ヴィジュアル系バンドのようにどこかアイドル視されがちなミュージシャンも思っていることだと思うが、"あなたが応援している私の姿はあくまであなたが創り上げたもので、本当の私じゃない"というメッセージが刺さる。それを踏まえた上でアイドルやバンドは楽しむべきだと個人的にも思う。(アイドルやV系バンドマンのプライベートに首を突っ込みたがるファンを見ると特に)

7. ZINNIA ★★★★☆

ドラムの一定したリズムが非常にかっこいい(特にハイハットが)バラード。雰囲気自体はlynch.の得意なスタイルで、ディレイの効いたギターが幻想的な空気を創り上げている。ベースもこういうスローな楽曲だからこそ耳に入ってくるし、ローが過去作と比べてもかなり良い響き方をしている。普通にいい曲だけど、個人的には後一歩って感じというか、サビにいまいち掴まれなかった。ライヴだと照明込みで映えそう。

8. IN THIS ERA ★★★★★

イントロから美しいギターで引き込まれる。割とスロー寄りな曲だが、少しずつ力が入っていく。リズム隊が曲を引っ張り、ギターはその周りを浮遊する感覚は微妙にBUCK-TICKLUNA SEAを彷彿とさせる。そこにエモーショナルなギター・ソロが入り、曲の熱量が徐々に上がっていく展開が良い。あまり長引かず、割とすんなり終わるのが個人的には好き。

9. RUDENESS ★★★★☆

初っ端からクリーン・ボーカルで疾走するが、その直後にギターがコード弾きからリフへと切り替わり、ハードコア的に爆走する。このリフもかなりシンプルで、メタル要素は薄め。シャウトにギャングコーラスの合いの手が入る感じは近年のlynch.が良く使う手法で、正直"頼りすぎでは?"と思うこともあるが、少なくともこの曲においてはそこまで気にならない。サビでは再びパンク的に疾走し、その後ブレイクダウンがあるが、メタルコアではなくニューメタルの系譜のものとなっている。

10. MACHINE ★★★★★

この曲も立て続けに爆走するが、こちらはかなり癖になる変わったメインリフが軸となっている。ハードコアとメタルコアの中間的な質感だが、ブレイクダウンは無し。ただ、随所に葉月のガテラルがアクセントとして登場するのが面白い。過去の疾走曲との差別化がきっちりできている点でも評価できる。

11. ASTER ★★★★★

イントロを始め、静かなパートに挿入されているミュートされたベースのスラップっぽい音が耳を引く壮大なロック・バラード。全体的にサビやギターソロで開ける感じがあり、それ以外はスローで幻想的。ただ、あまりダークさは感じない。なんというか、"白い"イメージが湧く切ない名曲。

12. EUREKA ★★★★★

ラストに相応しい程よい疾走感と幻想的な雰囲気を持ち合わせた曲。過去のアルバムでいうと「MOON」や「PHOENIX」を彷彿とさせる。このバンドは本当にこういう曲が得意だと思う。ライヴでも本編ではなくアンコールのラストが似合うような曲。この曲で終わるライヴを観てみたい。非常にかっこいいギター・ソロの後に女性の神秘的な合唱が挿入されているのも新鮮でいい。

 

 

総評: ★★★★☆

お気に入り曲:「ULTIMA」、「XERO」、「BARRIER」、「ALLERGIE」、「IN THIS ERA」、「MACHINE」、「ASTER」、「EUREKA」 

かなり前からlynch.には"マンネリ化"が付きまとっている。良くも悪くも『GALLOWS』以降のlynch.のアルバムに大胆な変化はなく、一定のクオリティーの作品をコンスタントに出している。前作『XIII』は久しぶりに見せた変化だったが、それでも"今までのlynch."の範疇は出ていなかった印象だ。本作も同様に、新しい要素はあっても革新的とまでは言えない。ただ、見方を変えると作風をブレさせずに一定のクオリティーを保っているのは評価されるべきことだとも言える。SLAYERやAC/DCもその作風に大きなブレが無い点から根強い支持を得てきた。lynch.も徐々にその領域に向かっているのかもしれない。実際このアルバムは前作より楽しめた。

 

今回は個々の曲でバンドが見せた細かい変化が結果的に楽曲に新鮮さを与えていた。今までのサウンドを大胆に変えるのではなく、土台として新たな要素を付け加えている。メンバーも常々"lynch.というジャンルを作りたい"という趣旨の発言をしているが、それを成し遂げる上で"すでに確立されているサウンドの土台"を壊す必要性は無いのだろう。個人的には"lynch."というジャンルは2014年頃からすでに出来上がっていると思う。前作や本作のように少しでもそのジャンルで表現できることの幅を広げることが今後も大事だと思う。そういう意味でもこのアルバムがlynch.の次のスタート地点になることを期待したい。

 

itunes

ULTIMA (通常盤)

ULTIMA (通常盤)