DETARAME SOUNDS

NO MUSIC NO LIFEな一般男性による音楽レビューブログ

ムック(MUCC)/ 『アンティーク』(1999 / 2000)全曲レビュー

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左からYUKKE、逹瑯、ミヤ、SATOち

1997年に茨城県で結成されたヴィジュアル系ロック・バンドの1stミニ・アルバム、及び初のCD音源。1999年12月に1stプレスがリリース。約半年後の2000年6月に2ndプレスが発売。長らく廃盤だったが、2012年に2ndミニ・アルバム『哀愁』と合わせてコンピレーション・アルバム『哀愁のアンティーク』という形で再発売された。今回レビューする際に聴いている音源は『哀愁のアンティーク』に収録されているものだが、曲順は主に2ndプレスに合わせている。

 

メンバー:
逹瑯 (Vo) ※1stプレスは"TATOO"表記
ミヤ (Gt/Cho) ※1stプレスは"雅"表記(2ndも?)
YUKKE (Ba)
SATOち (Dr)

 

まるでカメレオンの如く様々な音楽性の曲に挑戦し、自らの音楽的パレットに加える多彩な音楽性を誇るMUCC。そんな彼らも結成〜2004年(解釈によって諸説あるとは思う)まではダークで陰鬱な歌詞に昭和歌謡やフォーク的なメロディー・センス、ヘヴィなロックサウンドを組み合わせたスタイルを主軸とした音楽性だった。その頃の彼らはヴィジュアル系の中でも"密室系"と呼ばれるシーンに属していた。本作はその初期MUCCの良さが凝縮された作品である。

 

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1. 赤い音(1stプレス) / ―――――。(2ndプレス)

厳密に言うと違うSEだが、どちらも短いホワイト・ノイズが流れるだけのシンプルなもの。短いからこそ世界観の構築に貢献できていると思う。わざわざ単体で聴こうとはまったく思わないが。。。

2. 焼け跡 ★★★★★

2ndプレスの際に追加された楽曲。ダークでおどろおどろしく、ドゥーミーなリフから引き込まれる(ただし、この頃のミヤはまだ7弦ギターを使用していないため、後のヘヴィさは無い)。逹瑯の"何かが壊れる寸前"を感じさせる歌い方は初期の彼らを象徴する要素の一つだと思うが、この曲はそのいい例。激しくなるタイミングのハーモニクスが入ったリフもかっこいい。途中の加速するパートにおける"「はじめて死にたいと思ったあの日。 何も考えずにとび出せばよかった。」 あなたに燃やされたわたしの思い出が、 帰りたい、カエリタイ、とすすり泣いています。"のフレーズのインパクトが凄まじい。"帰りたい"と"カエリタイ"をわざわざ書き分けるあたりがこの頃のMUCCの"病んでる感"や"気持ち悪さ"、"不気味さ"を表している(褒め言葉)。

3. 四月のレンゲ草 ★★★★☆

暗い雰囲気が際立つ歌もの寄りなロック・ソング。ギターはメタル的なリフよりもコードやカッティングがメイン。ミヤのこういう曲調での哀愁を感じるプレイは本当にセンスがいい。ギター・ソロもテクニカルというよりはシンプルでフィーリングが主軸になっているが、それが曲に合っている。逹瑯のヴォーカルも(この曲に限らず)いわゆる"V系っぽい"歌い方ではなく、独自のはち切れそうな声で歌っているのがいい。 この逹瑯の歌唱こそが初期MUCCの歌詞に説得力をもたせていると言える。曲の最後のギターのクリーン・トーンが綺麗で好き。

4. オルゴォル ★★★★★

ベースがひたすら曲を引っ張っているパワフルな名曲。ギターもベースとユニゾンでリフを刻むパート 、静かにクリーン・トーンで不気味な空気を増幅させたりと何かと忙しい。全体的にベースが非常にかっこいい。どこかクラシックを彷彿とさせるギター・ソロの後、それまでベースが弾いていたフレーズをギターが弾く場面がまた意表を突いてきてたまらん。ライヴではサビの"回る回るキリキリと音をたてながら"に合わせて観客が回りながらジャンプする(時には方を組んで大きくぐるぐると)のが定番となっている。

5. 九日 ★★★★☆

MUCCの歌謡曲とフォーク的なルーツがメロディーに色濃く現れている哀愁ロック。特にミヤが途中から入れてくるリードパートが最高。こういうパターンの曲は後の「家路」や「夕紅」でさらに極めているが、この曲がそれらの原点ではないかと思う。女性の視点から書かれている歌詞もこの頃の逹瑯が歌うことによって切なさ意外にどこか狂気を感じる気がする。冒頭とアウトロの語りは犬神サアカス團の犬神凶子。音源化はされてないが(DVDには収録されている)、2012年に開催された15周年ライヴでは微妙に歌詞を変更したバージョンが披露された。

6. アカ ★★★★★

どこか気怠げな雰囲気が漂うスローテンポな"これぞ密室"な1曲。"赤"ではなく"アカ"というタイトル、そしてほぼカタカナで書かれた歌詞が病んだ世界観をこれでもかと見せつけてる。それでもどこかフォーク的なメロディーセンスを感じるのはさすが。ギターはシンプルなコード弾きが中心となっているが、イントロから引き込まれる絶妙な加減。ギター・ソロでは一転してかなりメロディアスでグイグイ来るようなフレーズが登場するのがいいアクセントになっている。サビで逹瑯に合わせてミヤがハモリを加えてるのが"気持ち悪いメロディー"(褒め言葉)をより気持ち悪くしていて癖になる。サビ自体は意外とキャッチーで耳に残るのが面白い。

 

 

総評: ★★★★★

お気に入り曲:「焼け跡」、「オルゴォル」、「アカ」

 

初期MUCCの密室系サウンドを堪能できる1枚。ミニ・アルバムというコンパクトさもあって割と気軽に聴ける長さ。曲のクオリティーも世界観の創り方も非常に高く、なぜ彼らがここから人気を得ていったのかがなんとなくわかる。逹瑯の歌はまだ"上手い"とまでは言えないが、独自性が非常に強く、他の歌手に似ている歌い方がほぼ登場しないのがすごい。密室時代の逹瑯の歌唱が極められたのは2004年の名作『朽木の灯』だと思うが、本作ですでにその原型は出来上がっている。

 

MUCCでよく聞く話は"昔が良かった"や"(MUCCではなく)ムック時代は良かった"などの近年(特に2010年以降)の彼らに対するネガティブな意見である。もちろん自分も含めて今のMUCCが大好きな人はたくさんいるが、おそらく密室サウンドに当時惚れ込んでファンになった層は彼らの変化についていけないのだろう。ただ、本作を改めて聴き直して思ったのは、見方次第ではこの段階ですでに近年のMUCCに通ずるアプローチが垣間見えること。本作にはヘヴィな曲、メロディアスな曲、パンク的要素、グランジ的要素などが感じられる。ダークな雰囲気が全体を通して存在するからあまり気づかないが、音楽的な面でいうと曲調はかなりバラバラだ。2006年以降のMUCCは動物に例えるならカメレオンだと即答できるくらいに様々なジャンルやスタイルを自由自在に取り込んでいる。同意してくれる人はあまり居ないかも知れないが、『アンティーク』の時点でその"自由な土台"の原型はすでに存在していたのだと思う。近年の曲に混ざって「オルゴォル」などがセットリストに入っていても違和感がないのもそういうことなのだと思う。

 

 

哀愁のアンティーク

哀愁のアンティーク

  • アーティスト:ムック
  • 発売日: 2012/08/20
  • メディア: CD