Flesh Juicer(血肉果汁機) / 『GOLDEN 太子 BRO』(2021)レビュー
2006年に台湾の台中で結成されたメタルバンドの3rdアルバム。昨年2月にメンバーが3人同時に脱退するというピンチを迎えたが、無事後任を迎えて再始動。
メンバー:
Gigo/童仲宇 (Vo)
Zero/阿霖 (Gt, Cho)
Matt/許主携 (Gt, Cho)
Sion/金毛 (Ba, Cho)
Evan/陳彥文 (Dr)
本作は今までに増してキャッチーさが強まっていて、初期のデスコアサウンドからはかなり遠のいている。より実験的な作品だが、同時に伸び伸びと音楽を作って楽しんでいる印象を受ける。
収録曲:
- 歡迎光臨/Welcome to TAICHUNG CITY
- 太子哥/GOLDEN TAIZI BRO
- 中港方程式/Taichung Port F1
- 玉山/Mount. Jade (FT. ØZI)
- 愛情99/LOVE U 99
- 血肉脫口秀/Flesh Talk Show
- 我是一隻瘋狗, 爽喔!/I’m a Fucking Mad Dog, Dope! (FT. BAT)
- Daddy Daddy
- 誕辰/Birth of the Greats
- 虎爺/Tiger Lord
- 感謝勞力/Sincere Gratitude
- 粗殘台中 2021/The Brutal Taichung 2021
全体的に本作はメタルコアとニューメタルにヒップホップ、トラップ、ポップス要素を組み合わせたような音楽性になっていて、日本的に言うと"ミクスチャー色"が強い。デスコアの要素が聴けるのは「我是一隻瘋狗, 爽喔!/I’m a Fucking Mad Dog, Dope! (FT. BAT)」と「粗殘台中 2021/The Brutal Taichung 2021」のみで、そのうち後者は初期の楽曲を再録したもの。つまりバンドの"今"演りたい音楽は以前のスタイルとはかなり違うものになっているのだと言える。
「歡迎光臨/Welcome to TAICHUNG CITY」と「太子哥/GOLDEN TAIZI BRO」は実質的には2つで1つの曲を成していて、今回バンドが新たに開拓したポップなメタルコアを聴かせてくれる。「中港方程式/Taichung Port F1」と「虎爺/Tiger Lord」ではメロディアスな疾走感溢れるサウンドを奏でていて、後者では今までに無いレベルで中華圏の伝統的な楽器の音を取り入れている(そういう意味ではCHTHONICを彷彿とさせる)。また、「Daddy Daddy」と「感謝勞力/Sincere Gratitude」ではヒップホップやトラップの影響が色濃く出ていて、近年のニューメタル・リバイバルに通ずる雰囲気を感じる。
本作には同郷のアーティストをフィーチャリングした曲が2曲収録されている。若手R&B/ヒップホップ歌手のØZIが参加している「玉山/Mount. Jade (FT. ØZI)」は力強いメロディアスな曲で、意外にもØZIの音楽性にあまり寄っていない。「我是一隻瘋狗, 爽喔!/I’m a Fucking Mad Dog, Dope! (FT. BAT)」では盟友のデスコアバンドBeyond Cure(病入膏肓)のヴォーカリストBAT(蝙蝠)を迎えている。短いシンプルな楽曲だが破壊力が凄まじい。こちらもフィーチャリング相手に引っ張られず、デスコアではなく、ニューメタル色が強い曲となっている(アウトロは完全にデスコアだが)。
オススメの楽曲:
Tr.1+Tr.2「歡迎光臨/Welcome to TAICHUNG CITY」〜「太子哥/GOLDEN TAIZI BRO」
新生Flesh Juicerの幕開けとなった曲。キャッチーでどこか陽気なノリが彼らとしては新しいが、ギターの音作りやフレーズに"らしさ"を感じる。ノリの良さがとにかく癖になる。
Tr.4 「玉山/Mount. Jade (FT. ØZI)」
曲の勢いと疾走感にØZIのラップが気持ちよく絡む。ヘヴィさもいい具合にあり、非メタルファンにも勧めやすい曲になっている。
Tr.6+Tr.7「血肉脫口秀/Flesh Talk Show」〜「我是一隻瘋狗, 爽喔!/I’m a Fucking Mad Dog, Dope! (FT. BAT)」
イントロ的なTr.6からなだれ込むように始まるトラップメタルなTr.7が非常にカッコいい。アウトロでGIGOとBATがヤケクソにグロウルやピッグスクイールを連発し、一気に初期を彷彿とさせるサウンドになるのが非常に爽快。
Tr.10「虎爺/Tiger Lord」
中華感が色濃く出ているギターが牽引するアップテンポな曲。こちらもかなりキャッチーでのりが良い。
Tr.69「粗殘台中 2021/The Brutal Taichung 2021」
2011年にリリースされた、バンドの知名度を飛躍させた2ndミニアルバム『粗殘台中/The Brutal Taichung』 の表題曲を再録したもの。ヴォーカルのデスコア感は多少減っていて、原曲ではグロウルだった箇所がミッドなシャウトに変化しているが、バンドの演奏力/ミックスの良さなどは圧倒的に向上している。バンドを代表する名曲なだけあって、文句なしにかっこいい。
総評: ★★★★☆
お気に入り曲:「歡迎光臨/Welcome to TAICHUNG CITY」〜「太子哥/GOLDEN TAIZI BRO」、「中港方程式/Taichung Port F1」、「玉山/Mount. Jade (FT. ØZI)」、「我是一隻瘋狗, 爽喔!/I’m a Fucking Mad Dog, Dope! (FT. BAT)」、「虎爺/Tiger Lord」、「粗殘台中 2021/The Brutal Taichung 2021」
前作で魅せた楽曲の完成度、本作で新たに開拓したキャッチーさ。これらが合わさった今のFlesh Juicerはより一層日本のラウドロックファンに刺さり得ると思う。後はきっかけ次第だと思う。バンド側がもう少しグローバルな視野でSNSなどを動かしたりするべきだとも思うが、それを差し引いてみても、日本の人気バンドが彼らを呼べば火がつくはず…。それくらい良質なバンドだと思う。
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