DETARAME SOUNDS

NO MUSIC NO LIFEな一般男性による音楽レビューブログ

Flesh Juicer(血肉果汁機) / 『深海童話 / Fairy Tales of the Ocean Deep』(2018)レビュー

  

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左からBarry、Zero、Gigo、Qing、Jen

2006年に台湾の台中で結成されたメタルバンドの2ndアルバム。デスコアからスタートし、徐々にメタルコアや'台湾らしさ'、キャッチーさを取り入れてきているFlesh Juicer。豚マスクを着用し、異質な存在感を醸し出しているGigo (Vo)を中心とする独特な世界観が熱狂的な支持を集めている。本作は彼らが本格的にオリジナリティ溢れる音楽性を開花させ、台湾国内での知名度と人気を大幅に上昇させたアルバムとなっている。本ブログでも何度か取り上げている同郷のCHTHONIC(閃靈)と違い、彼らは海外向けに作品の英語版をリリースはしていない。楽曲は基本的に台湾語で歌われていて、(日本のロック/ポップスと同様に)フレーズ単位で英語が登場する形をとっている。

なお、1stアルバム『GIGO』(2015年)は日本でもCDでリリースされているが、本作はされていない。現状としては、輸入盤を入手するか、各種配信サービスで聴くかの2択となっている。

 

メンバー(リリース時):
Gigo/童仲宇 (Vo)
Zero/阿霖 (Gt, Cho)
Qing/阿慶 (Gt)
Jen/大君 (Ba, Cho)
Barry/柏瑞 (Dr)

 

残念ながら2020年2月にQing (Gt)、Jen (Ba, Cho)、Barry (Dr)の3名が同時に脱退してしまったため、本作の布陣は既に崩れてしまっている。ファン歴の浅い自分から見ても、オリジナルメンバーだったQingと、ライヴにおいてコーラス面で特に大きく貢献していたJenの離脱は痛いと思う。ただ、バンドの作曲面での中心人物であるGigo (Vo)とZero (Gt, Cho)は残っていて、既に新メンバー3名を迎えて3rdアルバム『GOLDEN太子BRO』(来年1月リリース予定)の制作を進めているので、新体制の活動にも引き続き期待したい。

 


 

*今回のレビューから内容のボリュームを減らし、より簡潔に作品の特徴・魅力・感想を伝えるフォーマットに切り替えています。今までのフォーマットは"全曲レビュー"とし、たまに登場する程度のものになっていくと思います。

 

収録曲:

  1. 海底騎士/Rider of 7 Sea
  2. 打開太陽/Turn on the Sun
  3. 深海洋/Ocean Deep
  4. 執政官入侵/Invade Invade
  5. 黑暗人/Who is in the Darkness
  6. 索倫發言人/Spokesman of Sauron
  7. 海盜/Dragonrous
  8. 馬里亞納/Mariana
  9. 一起下地獄/Tales of Hell
  10. 關閉太陽/Turn the sun Off
  11. 海底城/The World Under...

 

作品全体を通して言えるのは、過去作と比べてさらにデスコア色が薄まっていて、その分(誤解を恐れずに言うと)キャッチーさや、大衆受けする要素が増えている。それは決してヘヴィさが損なわれたとか、シャウトをしなくなったとかではなく、あくまでこのバンドにピッタリのサウンド面でのバランスが確立されたということだと思う。

 

「打開太陽/Turn on the Sun」、「執政官入侵/Invade Invade」、「海盗/Drangonrous」などで顕著なのが、絶妙な'アジア感'を感じるリードギターだ。過去作にもちらほらとこのようなフレーズが使われたりしていたが(例:2011年の『粗殘台中/The Brutal Taichung』収録曲「出巡/Tour Inspection」)、ここまで主張が強いことは無かった。他にも、「打開太陽/Turn on the Sun」、「馬里亞納/Mariana」や「關閉太陽/Turn the sun Off」などで聴けるキャッチーなシンガロングパートもこのバンドとしては新しい(自分が中華系の言語の音の響きを聴き慣れていないからかもしれないが、これらのシンガロングパートは日本語や英語には無い独特な力強さを感じる)。これらの要素があることによって、ヘヴィな曲調でもすんなり聴ける上に、いわゆるポップ要素とは違う形で耳に残る楽曲たちに仕上がっている。

 

(翻訳ソフトなどを使って得られた情報を見る限りでは)確固たるコンセプトがある作品では無いが、全体的にアルバムとしての統一感や流れがしっかり確立されている。そのため、楽曲単体でももちろん楽しめるが、アルバムを通して聴くことにしっかり意味が感じられる作品だとも言える。

 

捨て曲など一切無いが、特に良いと感じた曲をいくつか紹介したい。

 

Tr.2「打開太陽/Turn on the Sun」

実質的なオープニング曲。とにかくリードギターがかっこ良い。全体的にタイトルに見合った'開ける'という感覚が湧いてきて気持ちいい。後半から登場するシンガロングパートもライヴ映え間違いなし。

 

Tr.3「深海洋/Ocean Deep」

ノリの良いメタルコアでかなりキャッチーなパートが多い。"該死你們都該死"というフレーズの箇所がめちゃくちゃパワフルで爽快。ライヴでは後半の同パートで観客を座らせてからジャンプさせるというのが定番となっている。

 

Tr.8「馬里亞納/Mariana」

本作の中でも特にストレートに激しい楽曲の一つ。畳み掛けるようなヘヴィなリフのオンパレードにヘドバンせざるを得ない。こんな激しい曲でもちゃんとシンガロングパートがあるのも良い。

 

Tr.10「關閉太陽/Turn the sun Off」

もはやこのバンドを代表するアンセムになっている名曲。しっかりヘヴィでありながら、本作の中で最もメロディアスな曲で、ライヴではもれなく大合唱が発生する。台湾語ができない自分でも冒頭からシンガロングしたくなるし、後半の"All I know that I wanna tell you the stories"から壮大さとエモさが爆発するのが鳥肌が立つくらいかっこいい。

 

↓こちらのライヴ映像を観てもらえれば、いかにこの曲が台湾のロック/メタルシーンに浸透してるかが解ると思う↓

 

総評: ★★★★★

お気に入り曲:「打開太陽/Turn on the Sun」、「深海洋/Ocean Deep」、「執政官入侵/Invade Invade」、「海盜/Dragonrous」、「馬里亞納/Mariana」、「關閉太陽/Turn the sun Off」

 

ライヴの規模、フェスでの立ち位置、知名度と人気の増加など、本作のリリース以降の彼らはみるみる人気バンドとしての地位を確立している。また、Flesh Juicerは台湾のグラミー賞とも言われている金曲奨(The Golden Melody Awardsにて2018年に本作をきっかけに最優秀バンド賞にノミネートされている。それは本作が彼らにとっての'作曲面での黄金比'を見つけた作品だということを裏付けていると思う。だからこそ、これだけの名盤が日本でちゃんとした形でリリースされていないのが非常にもどかしい(今からでもどうにかならないだろうか…)。本当に日本でもっと知られるべきだと思うので、コロナが収まったらCrystal Lakeや、かねてから交流のあるHER NAME IN BLOODなどの国産のバンドにFlesh Juicerを呼んでいただきたいと切に願う。

 

↓2019年に本作を引っさげて台湾のMegaport Festivalのメインステージに出演した際のライヴ映像。とにかく楽しそう↓

 

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