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Metallica / 『Load』(1996)全曲レビュー "あまりにも不当に叩かれすぎた隠れた名盤"

 

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  • アーティスト:Metallica
  • 発売日: 2013/09/24
  • メディア: CD
 

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左からJason Newsted、Lars Ulrich、James Hetfield、Kirk Hammett


1996年にリリースされた、世界的モンスター・バンドMetallicaの6thアルバム。前作(1991年リリースの『Metallica』(通称ブラック・アルバム)でかつてのスラッシュ・メタル路線からテンポを落とした正統派な方向性に舵を切ることにより、結果的に大ヒット作を生み出し一気にスーパースターへと成り上がった彼らだが、本作では賛否両論の実験的な音楽性を披露している。

 

メンバー:
James Hetfield (Vo/Gt)
Kirk Hammett (Gt)
Jason Newsted (Ba)
Lars Ulrich (Dr)

 

本作において"メタル"と呼べる要素は過去と比べて激減。全体的にハード・ロックとサザン・ロックを組み合わせた様なサウンドが主軸となっている。もちろん、前作で大スターになっているので、本作も売れたし、ビルボードで引き続き1位を獲得した(現在に至るまで、91年の『Metallica』以降のアルバムはすべて1位を獲得している)。ただ、スラッシュ時代のファンや、"ブラック・アルバムその2"の様な路線を期待していたメタルファンからの反発が(今でも)凄まじく、『Load』とその翌年リリースされた『Reload』は頻繁に駄作扱いされている。本作でメンバー全員がバッサリと髪を切ったため、より一層"メタルを捨てた"と捉えるファンもいた(厳密に言うとJasonは前作のツアー中の1993年にすでに髪を切っている)。

 

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1. Ain't My Bitch ★★★★★

この1曲目の冒頭からすでに前作とは何かが違うのが感じられる。ノリがいいヘヴィなサザン・ロックという印象の曲。ノリの良さと程よい骨太さの感じられるサウンドが心地よい。サビに一瞬だけスラッシュ・メタル的なギター・リフが登場するのが面白い。かなり好きな曲だが、『Load』と『Reload』のツアー以降はライヴで披露されていないのが残念。

 

2. 2 X 4 ★★★★★

タイトルの読み方は"ツー・バイ・フォー"。2曲目もヘヴィなサザン・ロックだが、こちらの方がグルーヴ感が強く"ダークさ"も感じられるため、より(それまでの)Metallicaに通じる曲だと思う。本作の収録曲の中で唯一アルバム制作途中の1995年にライヴで披露されている。逆にアルバムリリース後は激レア曲で、2000年以降は披露されていない。ネット上にある情報で確認できる限りでは通算10回しか演奏されてないらしいが、非常にもったいないと思う。

 

3. The House Jack Built ★★★★★

ダークでミステリアスなドロドロしたAlice in Chainsを彷彿とさせる曲。過去の楽曲で言うと「The Thing That Should Not Be」(1986年リリースの3rd『Master of Puppets』収録)や「Harverster of Sorrow」(1988年リリースの4th『...and Justice For All』収録)、「The God That Failed」(『Metallica』収録)などに近い雰囲気。ただ、それらの楽曲と違ってズッシリとしたヘヴィさは無い。アルコール依存症と戦う心理状況を綴った歌詞が歌メロと相まって曲の不気味さを際立てている。中盤のトークボックスを使用したフレーズが耳を引く。全体的にJamesの歌唱が素晴らしい。残念ながら一度もライヴで演奏されていないが、今からでも遅くないと思うので、是非解禁してほしい。

*余談だが、なぜか配信サービスだとタイトルが"The House That Jack Built"になっている。。。

 

4. Until It Sleeps ★★★★☆

アルバムの発売に先駆けてシングルカットされたメロディアスでダークなロック・ソング。ベタだが、ゆったりしたテンポ感に引き込まれる。サビでより力強くなるのが良い。哀愁を感じるシンプルなギター・ソロと、イントロ及びアウトロのベースが好き。こちらは1998年までは定番曲だったが、そこから徐々にレア曲となり、2000年を最後にセットリストから外れた。その後は一時的に2008年秋に9回演奏されたのが現時点での最後の演奏となっている。

 

5. King Nothing ★★★★★

アルバムのリリース後にシングルカットされた曲(海外では当時"アルバムを宣伝するため"にシングルを出すというのが主流で、アルバムのリリース後にシングルを何枚か出すのが普通だった)。前作のリード曲「Enter Sandman」を彷彿とさせる雰囲気の曲だが、やはりこちらの方がサザン的な雰囲気が強く、メタルよりはハードロックという感じ。全体的にJasonのベースが非常にかっこいいフレーズで曲を牽引しているのが最高。こちらは割りと披露されているほうで、2000年までは定番曲。その後は数年おきにセットリストに登場する感じで、最近では2017年1月に披露されている。

 

6. Hero of the Day ★★★★★

これもアルバムリリース後にシングルカットされた曲。キャッチーでメロディアスなバラード寄りなロック・ソングだが、サビで一気に激しくなり、Jamesの歌唱もよりエモーショナルに。ただ、この激しさはあくまでこのアルバムの収録曲にしてはで、過去の彼らと比べたら全然だ。1997年には定番曲だったが、それ以降は5回しか披露されていない。2016年にアコースティック・バージョンを披露したのが現時点で最後。

 

7. Bleeding Me ★★★★★

このアルバムに収録されている"過小評価にも程がある隠れた2大名曲"の一つ。この頃からすでにアルコール依存症で苦しんでいたJamesがその想いを吐露するエモーショナルな曲。ゆったりしたテンポでジワジワとエネルギーを溜めていき、後半でズッシリと爆発する。ライヴにおけるJamesの感情の込め具合が凄まじい。方向性は全然違うが、個人的には(このアルバムのもう一つの大名曲とともに)「...and Justice For All」や「Fade To Black」に引けを取らない、このバンドのディスコグラフィーの中でも光る名曲だと思う。こちらも2000年まで定番曲で、その後はレア曲に。最近では2016年と2018年にアコースティック・バージョンとして披露された。

 

8. Cure ★★★★★

ヘヴィなサザン・ロック的なギターが奏でるうねったグルーヴがたまらない。このアルバムの中ではだいぶヘヴィな部類に入ると思う。間奏ではJasonが珍しくスラップのフレーズを入れているのが非常にいいアクセントになっている。こちらはライヴでの披露は未だになし。

 

9. Poor Twisted Me ★★★★☆

本作で1番サザン色が強い曲の一つ。ブルーズ的なうねるフレーズをハードロック的な音作りで演奏してるので、サウンドは骨太い。全体的にリズムが気持ちいいので、そこに浸れれば心地よい曲。ライヴでは1997〜98年にアコースティック・バージョンが通算4回披露されたのみの激レア曲。

 

10. Wasting My Hate ★★★★★

「Ain't My Bitch」「King Nothing」と並んで本作で1番"いままでのMetallica"に通ずる部分が多い曲。前作収録の「The Struggle Within」に近いビート感だが、やはりこちらはメタルというよりハードロック。キッチリしたタイトな構成じゃないからこその魅力がある。1997年以降のライヴでは通算2回(2004年と2011年に1回ずつ)しか演奏されていないのが非常にもったいない。定番曲でもおかしくないタイプの曲だと思う。

  

11. Mama Said ★★★★☆

サザンを通り越して完全にカントリーの領域に入っているバラード。Metallicaらしさは正直全然感じないが、シンプルにいい曲。こちらは1996年に1度だけテレビ番組でJamesの弾き語りという形で披露されたのみ。 

 

12. Thorn Within ★★★★★

「Cure」同様に本作ではヘヴィさが強めな曲。リフもJamesのヴォーカルがダークでかっこいい。ライヴでの演奏は1度もなし。

 

13. Ronnie ★★★★☆

おそらくMetallica史上もっとも"変"なリフが軸となっているサザン・ロック。ノリを掴むのが難しいが、無事掴めるとグルーヴが気持ちいい。ちゃんとした形では1度もライヴで披露されていない。何度かジャム・セッションで部分的には演奏されている。

 

14. The Outlaw Torn ★★★★★

このアルバムに収録されているもう一つの"過小評価にも程がある隠れた2大名曲"。 壮大に"別れ"について歌っているこの曲のフルバージョンは、Metallica史上最長の10分48秒。CDに収録できる分数に限界があるため、本作ではアウトロが約1分程カットされている。なお、フルバージョンは後に「The Memory Remains」のカップリングとしてリリースされた。スローテンポで進んでいくこの曲は一見すると退屈かもしれないが、ジワジワと盛り上がっていき、ギター・ソロを境にエネルギーがどんどん放出されていく感覚に鳥肌が立つ。特に後半のJamesがリードギターを担当する箇所が素晴らしい。テンポが徐々に早くなり、同時にJamesのギターのフレーズがより感情的でアドリブ感のあるものになっていくのがたまらない。この曲はMetallicaの中でも個人的には5本指に入る名曲だと思う。こちらはかなりのレア曲だが、本作の他の"レア曲"と違い、全く演らなくなったのではない。初披露がアルバム発売の4年後の1999年で、それ以降はまばらに、数年に1・2回程度の頻度で演奏されている。現時点での最後の演奏は2019年9月で、それが通算16回目の披露だ。

 

総評: ★★★★★

お気に入り曲:全部(強いて言うなら「Ain't My Bitch」「2 X 4」「The House Jack Built」「King Nothing」「Bleeding Me」「Wasting My Hate」「The Outlaw Torn」)

 

このアルバムを含め、『ブラック・アルバム』以降のMetallicaに対してネガティブな感情を抱くスラッシュ・メタル好きは多い。実際、スラッシュ期のMetallicaに惚れてファンになった層からすると、このアルバムの方向性は全くもって求めているものと違っただろう。そういう人たちが本作を好まないのはまぁ理解できる。ただ、だからといって本作が"出来の悪い"アルバムだと判断するのは違うと思う。このアルバムが、もしほかのバンド名で出されていたら、普通に名盤扱いされていると思う。個人的に本作は『Master of Puppets』と『Metallica』と同じくらい好きなアルバムだ。音質面でも前作同様に素晴らしくクリアでパンチのある音になっていて、特にドラムの音がかっこいい。スラッシュ・ファンのバッシングがあまりにも一般化してしまったがゆえに、"『Load』は駄作"というのが当たり前の認識となっている気がするが、あまりにも短絡的で頭が凝り固まった考え方だと思う。好みではないかもしれないが、これは非常に高クオリティの作品だ。残念ながらバンド側もそういうネガティブな評価に少なからず影響されているのか、本作の曲がセットリストに登場することは非常に珍しくなってしまっている。コロナ後にライヴを行う際には是非本作のレア曲も演奏してほしい。

 

 

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