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Bring Me The Horizon / 『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』(2020)全曲レビュー

 

Post Human: Survival Horror

Post Human: Survival Horror

  • 発売日: 2021/01/22
  • メディア: CD
 

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左からOliver Sykes、Lee Malia、Matt Nicholls、Jordan Fish、Matt Kean

2004年にイギリスのシェフィールドで結成されたロック・バンドの新EP。デスコアからキャリアをスタートし、そこからメタルコアポスト・ハードコアオルタナティブ・ロック→実験的ポップスと次から次へとサウンドを変化させて来ている彼らだが、本作では今まで演ってきた様々なサウンドを巧みに組み合わせた新境地を見せてくれる。

 

メンバー:
Oliver Sykes (Vo)
Lee Malia (Gt)
Matt Kean (Ba)
Matt Nicholls (Dr)
Jordan Fish (Key)

 

本作は全4作のEPを組み合わせて完成する『POST HUMAN』というシリーズの第1段で、コロナ禍の鬱憤や苛立ち、世界情勢が色濃く反映されている。中には2019年に制作された曲もあるが、まるで未来予知のごとく歌詞が2020年にピッタリ当てはまるのが凄い。

 

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1. Dear Diary, ★★★★★

2ndアルバム『Suicide Season』(2009年)の時代にタイムスリップしたかのような、近年の彼らからは全く想像すらできなかったレベルの激しさを見せつける曲。ただ単にメタルコアに回帰したわけではなく、近年培ってきたポップセンスやエレクトロ要素もふんだんに盛り込んでいる。そのため、同じ激しさでも昔と比べてかなりキャッチーになっている。1回目のサビの後にSlayerを彷彿とさせる短いギター・ソロが入っている点にニヤリとしてしまう。歌詞はゲームの「バイオハザード1」内に登場する"飼育員の日記"(の英語版)にインスパイアされていて、うまくコロナ禍のステイホーム生活に重ねられる様に工夫されている。"God is a Shit Head(神はクソ野郎だ)"というフレーズが痛烈で素晴らしい。

 

2. Parasite Eve ★★★★☆

6月にリリースされたシングル。宗教的で美しくも不気味な女性の合唱を経て、ダークな電子ビートの上にOliverのラップ的なヴォーカルが乗る。言葉数が多いサビは一転してキャッチーだが、全体的にどこか掴みどころがない雰囲気がある。中盤では強烈なブレイクダウンがあるが、メタルコアというよりはニュー・メタル色が強めなあたり、近年の音楽性が活かされているのが解る。

 
3. Teardrops ★★★★★

Linkin Parkへのリスペクトを感じさせるメロディアスなヘヴィ・ロック。シンプルでキャッチーなメロディーが耳に残るし、全体的に暗めな雰囲気なのが良い。中盤にはブレイクダウンが入っているが、短いためさらっと聴ける(正直この曲にブレイクダウンは不要だったかも?)。全編を通してエレクトロ要素が前面に出ていて、前作『amo』(2019年)での実験的なスタイルも消化されている印象を受ける。

 
4. Obey (with YUNGBLUD) ★★★★★

同じイギリス出身の若きロックスターYUNGBLUDとコラボして制作されたインダストリアル・メタル・ソング。畳み掛けるようなテンポ感がライヴ映えしそうで、シンプルなサビは大合唱になる光景が浮かぶ。歌詞は、都合の悪いことが政府により隠蔽され、市民には無知のまま生活を続けることを望む社会の様子を権力者の視点から皮肉に描いている。コロナ禍での各国の対応の差や、浮き彫りになった様々な問題点を直球に批判する内容の歌詞を人気バンドが平気でリリースできる点では本当に英語圏が羨ましい(もちろん英語圏にも数え切れないくらいの問題点はあるが)。

 
5. Itch For The Cure (When Will We Be Free?) ★★★★★

次の「Kingslayer」へと続くインターリュード的な短い楽曲。シンセが登場してから徐々に疾走感が増していく電子ビートが心地よく、ジャングルやドラムンベースの要素も感じられる。クレジットされていないが、「Kingslayer」に参加しているBABYMETALのSU-METALとMOAMETALも登場する。「Kingslayer」を聴くときはこちらとセットで聴くのがおすすめ。

 
6. Kingslayer (feat. BABYMETAL) ★★★★★

以前から交流があり、互いにファンであることを公言していたBMTHとBABYMETAL。昨年秋にはBABYMETALの日本凱旋公演にBMTHがゲストで参加し、今回ついに楽曲でのコラボレーションが実現した。(今の彼女たちがアイドルかどうかはさておき)日本のアイドルから派生して誕生したユニットがグラミー賞にノミネートされるような世界的なロックバンドの音源にフィーチャリングされるまでになるとは誰も結成時には思わなかっただろう。これはシンプルに誇るべき快挙だと思う。肝心の曲だが、BABYMETAL側に合わせたと言われても疑問を持たないようなシンセや電子ビートで溢れているのがまず特徴的だ。Oliverは本作で一番攻撃的なヴォーカルを披露していて、グロウルも久しぶりに大々的に使用されている。SU-METALはサビと一部のヴァースを任されていて、彼女の綺麗なハイトーンがOliverのシャウトと絶妙な対比を生んでいる。また、BMTH側からの希望で部分的に日本語で歌っている箇所もある。MOAMETALは(自分の耳が正しいなら)おそらくハモリと合いの手を担当しているが、これもまた"BABYMETALらしさ"を楽曲に大幅に足している。全体的に疾走感が気持ちいい曲になっていて、特に最後のサビの後に余韻のように入ってくるシンセのフレーズが非常にかっこいい。ブレイクダウンでは久しぶりド直球のメタルコア的なフレーズを披露しているが、その上にSU-METALのヴォーカルを入れている点で一筋縄にはいかない面白さが感じられる。2020年を代表する名曲。

 

7. 1x1 (feat. Nova Twins) ★★★★★

5thアルバム『That's The Spirit』(2015年)で開拓したアリーナ・ロックサウンドに近年の実験的要素を加えたかのような曲。イギリスの女性二人組バンドNova Twinsをフィーチャーしている。同バンドの歌唱が加わることで曲の持つシニカルな雰囲気が増幅させられていて、どこかヒップホップに近い空気感も感じる。こちらも大きな会場で大合唱できそうな壮大さを持っている。歌詞は、過去の自らの記憶に苦しめられる心情が赤裸々に描写されていて、自己嫌悪という感情がリアルに映し出される。個人的にかなり共感できた曲でもある。

 

8. Ludens ★★★★★

昨年11月にPS4ゲームソフト「Death Stranding」のサントラ用に制作されたシングル。『amo』でよりメタルから離れ、曲によってはロックとすら呼べない実験的な音楽性を披露していたため、この曲のリリースが発表された時は多くの人が同様の作風を想像していた。確かに同作で培ったポップ要素や電子音の使い方は活かされている。ファン層に大きな衝撃を与えたのは、この曲に久しぶりのブレイクダウンとOliverのシャウトが入っていた点だ。メタルコアとニューメタルの両方の要素を持つ落とし方が新しかった上に、一瞬ではあるがブラスト・ビートも登場させる遊び心も感じられたのが大きかった。今回のEP収録にあたって、CD版ではかねてよりライヴで披露されていた"微妙に歌詞が違うバージョン"にアップデートされている(配信はシングルと変わらず)。

 

9. One Day The Only Butterflies Left Will Be In Your Chest As You March Towards Your Death (feat. Amy Lee) ★★★★☆

NightwishAmy Leeをフィーチャリングした壮大なバラード。地球と人類の関係性を恋愛に例えていて、環境破壊によってそれが崩れていく様子を描いている。途中からバンドサウンドが加わってクライマックスを迎えるが、アウトロが個人的にはもう少し長いほうが良いと思った。ラストに置くことによってヘヴィさが強めの本作を浄化するかのような美しさが感じられる。

 

 

総評: ★★★★★

お気に入り曲:「Dear Diary,」、「Teardrops」、「Obey」、「Kingslayer」、「1x1」、「Ludens」

 

確実に進化と呼ぶのがふさわしい変化と続けてきたBMTHだが、多少はファン層の入れ替わりも伴ってきたと思う。初期のデスコアが好きだったファンの中には『That's The Spirit』や『amo』、下手したら『Sempiternal』で離れた人もいただろう。自分も含め、変化を受け入れつつも、内心"ヘヴィな音を出すBMTH"は二度とお目にかかれないのかと嘆くようなファンもいたはず。本作は近年の実験性をきっちりと消化しつつ、バンドが経てきたすべての音楽スタイルの要素を内包したまさにキャリアの集大成と呼べる名盤だと思う。デスコア期からはOliverのグロウルとスクリーム、そしてMattのブラストビート。メタルコア期からはOliverのミッドなシャウトとブレイクダウン。そこに『That's The Spirit』のアリーナ性、『amo』のポップス/電子音を組み合わせている。これが全く違和感がないどころか、全く新たなジャンルにすら聞こえる箇所があるのが凄い。以前からシーンのリーダー的なポジションにいたが、まさしく新時代を切り開くような存在にいよいよなってきているのが実感できるEPだと思う。残りの3作に対する期待値も上がる一方だ。

 

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POST HUMAN: SURVIVAL HORROR

POST HUMAN: SURVIVAL HORROR

  • Bring Me The Horizon
  • ハードロック
  • ¥1833