DETARAME SOUNDS

NO MUSIC NO LIFEな一般男性による音楽レビューブログ

CHTHONIC(閃靈) / 『賽德克巴萊 / Seediq Bale』(2005)全曲レビュー

 

サイディク・バレイ(DVD付)

サイディク・バレイ(DVD付)

  • アーティスト:ソニック
  • 発売日: 2007/01/24
  • メディア: CD
 

 

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左からJesse Liu、Alexia Lee、Freddy Lim、Doris Yeh、Dani Wang

1995年に台湾で結成されたメタル・バンドの4thアルバム。2005年10月に台湾、その後2006年にアメリカ、2007年にヨーロッパと日本でリリースされた。なお、台湾でリリースされたバージョン以外はすべて英語で歌っている音源となっている。これはあくまで持論で、入手のしやすさという意味でハードルは上がるが、このバンドの音源は絶対に母国語で歌っているバージョンの方がオススメ。かっこよさの桁が違う。今回も含め、このバンドをレビューする際は英語版ではなく、台湾語版を対象とする。↑のリンクは英語版

 

メンバー(台湾版リリース時):
Freddy Lim / 林昶佐 (Vo,二胡)
Jesse Liu / 劉笙彙 (Gt)
Doris Yeh / 葉湘怡 (Ba)
Alexia Lee (Key)
Dani Wang / 汪子驤 (Dr) ※すでに加入済みだが、怪我のためレコーディングには不参加

サポート/ゲスト:
Reno Kiilerich (Dr)
Sandee Chan / 陳珊妮 (Cho)

 

英語版のリリース時にはメンバーチェンジを経ているため、メンバー表記が変わっているが、ボーカル以外のパートも録り直しているか否かの情報は見つからなかった。

メンバー(英語版リリース時):
Freddy Lim / 林昶佐 (Vo,二胡)
Jesse Liu / 劉笙彙 (Gt)
Doris Yeh / 葉湘怡 (Ba)
Dani Wang / 汪子驤 (Dr)
Su-Nung / 甦農 (二胡)
CJ Kao / 高嘉嶸 (Key)

 

非常に政治色が強いバンドで、台湾独立派。ヴォーカルのFreddyはAmnesty Internationalの台湾支部長を経て、現在はバンドをやりつつ台湾の国会議員を勤めている。


本作はブラック・メタルを軸に、中華系の音階や伝統楽器を取り入れたオリエンタルな独自性あふれるサウンドを展開している彼らの出世作とも言えるアルバム。前作までは歌詞のテーマは神話や迷信、伝説などのファンタジー的なものが多かった。本作から明確なテーマが掲げられ、それがバンドの説得力を大きく底上げした印象。本作はフィクションでありながら、史実を元としたストーリーを展開する3部作の第1作で、日本統治時代に起きた霧社事件を題材としている。この3部作は"台湾"の悲劇と強さを描いているため、必然的に日本統治時代も登場する。この作品内では日本側が悪役的立場だが、このバンド自体は日本が大好きで、頻繁に来日しているので、そこは誤解しないでほしい。3部作の詳しいストーリーはバンドが公式Facebookにて英語で解説しているので、英語が読める人はそちらを見てみるのもオススメ。

3部作解説:https://www.facebook.com/note.php?note_id=10150202621017190

台湾語の歌詞は文字で読むとなんとなく意味がわかるのが面白い。
こちらでShow Lyricsをクリックすると表示される。

 

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1. 岩木之子 / Progeny of Rmdax tasing ★★★★★

いきなり爆走するシンフォニック・ブラック・メタルにヘドバンせざるを得ない。ギターの音が少々埋もれているが、その分キーボードなどのシンフォニック面が引き立てられている。Freddyのボーカルは主にブラック・メタル的な金切りスクリームだが、ところどころにデス・メタル的なグロウルが登場する。また、DorisとAlexia、そしてゲストのSandee Chanによる幻想的な女性ボーカルがいい意味で"中華圏"的世界観を強めている。ブラック・メタルでありながら、アジアのバンドとしてのユニークさで溢れている。台湾語のタイトルは、ストーリーの主軸となっている台湾原住民のセデック族が元は岩や木(すなわち自然)から生まれた人々だという伝承から来ている。

2. 文面卸 / Indigenous Laceration ★★★★★

刻みが非常に魅力的なギターリフから始まり、爆走するかと思いきや、そのままずっしりと進んでいく展開がいい。Freddyのスクリームに時々女性コーラスの囁きが絡むのがミステリアスで引き込まれる。ギター・ソロ以降徐々にヒートアップしていくが、登場するリフがいちいちかっこよすぎる。アウトロでは疾走する中、女性ボーカルと二胡、そして妙にクラシカルなフレーズを奏でるギターが絡み合う。説明だけ読むとカオスだが、この組み合わせが不思議な化学反応を引き起こしている。台湾語のタイトルは原住民が入れる刺青を意味する。元々は「黥面卸」というタイトルだったが、これは"罪人に入られる刺青"を意味する(バンドはこれを知らなかった)。2015年に原住民代表との共同声明内でこの曲を正式に改名することが発表された。

3. 忿燃戰靈封 / Enthrone ★★★★☆

1分ほどの短い曲。女性ボーカルとピアノにFreddyのスクリームとバンドのヘヴィネスが混ざり合った半インスト的な曲だが、かっこいい。さり気なく入ってくる二胡がまたいい味を出している。

4. 大出草 / Bloody Gaya Fulfilled ★★★★★

ツーバスが爆走する中、幻想的な女性ボーカルとキーボードが入る。そこにブラック・メタル的演奏とボーカルが絡み、疾走する。全体的に疾走感がすごく、キーボードや二胡が特に強くフィーチャーされているシンフォニック寄りのドラマチックな曲。途中にメタルコアのブレイクダウンに通ずるフレーズが入っているのも面白い。アウトロの女性ボーカルがパワフルにフェイクを歌っているパートが特にいい。

5. 泣神 / The Gods Weep ★★★★★

おそらくキーボードで出しているハープの音色にこれまた爆走するブラック・メタルが瞬時に加わるイントロがいい。前半に日本語詞が登場する:"生番共よ あろうことに我が大日本帝國の逆鱗に触れ、御皇恩に背いた者共 一人たりとも容赦せん"。当時の台湾では日本語が普通に使用されていたため、台湾語、セデック語と日本語が同じ曲内に使用されているのは、ある意味当時の台湾を表しているとも言える。題材が題材だけに、日本語が登場するだけでインパクト大。曲調としては後半のテンポチェンジの嵐が特にかっこいい。この曲も随所で響いてくる二胡の音色が切なさや哀愁を感じさせる。アウトロの女性ボーカルもそれに追い打ちをかける。

6. 叢屍‧繫冥河 / Where the Utux Ancestors Wait ★★★★☆

オーケストレーションが荘厳な雰囲気を醸し出し、女性ボーカルとともに疾走。ザクザク感が強く出ているギターが気持ちいい。イントロで登場する女性ボーカルも随所で挿入されていて、いいフックになっている。後半はより壮大な空気感になっていて、そのままアウトロまで爆走する。キーボードがかなり目立っているパートが多い曲。

7. 虹橋赴冤 / Exultant Suicide ★★★☆☆

ずっしりしたスローテンポで進んでいくヘヴィな1曲。キーボードと二胡がメロディアスさを担い、ギターはシンプルなリフで土台を支えている印象。途中"爆走するかも"と思わせるパートがあるが、後半に少しテンポアップするにとどまっている。ツーバスが入ってくるあたりからクライマックス感が強まり、二胡が前に出てくる。決して悪い曲じゃないが、テンポと長さ的に若干ダレる感覚は正直ある。

8. 川中島之祭 / Banished Into Death ★★★★☆

個人的にはメタルコアっぽさを少し感じるイントロが印象的。その直後のパートで登場するピアノが正直邪魔(その後は気にならないが。。。)。こちらもシンフォニック色がかなり強い曲で、二胡やピアノがかなり目立っている。後半のギター・ソロあたりからダイナミックに曲の雰囲気が変わっていくのがかっこいい。

9. 半屍.橫氣山林 / Quasi Putrefaction ★★★★★

壮大に爆走する名曲。ドラムのリズムの細かい変化、キーボードのボーカルと合わさるようなプレイ、ザクザクしたリフが組み合わさって畳み掛けてくる。一旦テンポダウンして登場する女性ボーカルのコーラスが切なさとミステリアスさを醸し出す。そこから女性ボーカルとFreddyのスクリームが合わさって疾走する。シンフォニック・ブラック・メタルとしても非常にかっこいいし、アジアのバンドとしてのアイデンティティもちゃんと聴いていて伝わってくる。Jesseのギター・ソロも疾走感を損なうことなくエモーショナルなフレーズを奏でていてかっこいい。アウトロも女性ボーカルで疾走しながらフェイドアウトするという、不思議な爽快感を覚えるものとなっていてかっこいい。

 

総評: ★★★★☆

お気に入り曲:「岩木之子 / Progeny of Rmdax tasing」、「文面卸 / Indigenous Laceration」、「大出草 / Bloody Gaya Fulfilled」、「泣神 / The Gods Weep」、「半屍.橫氣山林 / Quasi Putrefaction」

 

このアルバムが出たタイミングで彼らは結成10周年を迎えているが、聴く側としてはあまりそういう実感が無い。というのも、彼らが世界的に評価されるようになっていったのはこの3部作の次の2作:2009年の『十殿 / Mirror Of Retribution』、2011年の『高砂軍 / Takasago Army』からであって、台湾国外のファンからしたら本作以前のアルバムの存在感が正直薄い。彼らのアルバムの中で純粋な"ブラック・メタル"と呼べるのは本作が最後で、次作から徐々にデス・メタル要素が強まっている。本作は楽曲のクオリティーという意味では新境地だったが、まだまだ発展途上の状態だと言える。ただ、バンドにとって大きな意味を持つ3部作の一部であり、なおかつ本格的な世界進出のきっかけとなったアルバムという点から"CHTHONIC 第2章"の幕開け的な作品だとも思う。今となっては本作の収録曲をライヴで披露することが基本的に無い(そもそも『高砂軍 / Takasago Army』以前の曲を基本的に演らない)のが正直悲しい。

 

初めて彼らの曲を聞く人には『高砂軍 / Takasago Army』を進めるが、後の作品では薄まっているブラック・メタル要素が本作ならではの雰囲気を創り上げているので、こちらも聴く価値あり。

 

↓ファンが撮影したこの時期のライヴ映像。アルバムでもゲストで参加しているSandee Chanが途中から参加している↓

Spotify(英語版)↓

itunes(英語版)↓

Seediq Bale

Seediq Bale